弁護士はどう読む?―『空飛ぶタイヤ』に見る刑事事件考

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予見可能性

過失犯において最も重要な責任要素であるのが、予見可能性です。予見可能性がなければ、結果予見義務違反も、その予見に基づく結果回避義務違反も肯定できないことになります。その意味で、予見可能性は過失犯処罰のために最も重要といえます。

予見可能性は、どの範囲まで必要とされるのでしょうか。故意について判例・多数説が立っている「抽象的法定符号説」によれば、過失について実際に侵害が生じた客体に侵害が生じることまでの予見可能性は不要で、同種の客体に侵害が生じることについて予見可能性があれば足りるとします。実際に、この点について判例は、自動車の運転を誤り、知らぬ間に荷台に乗り込んでいた2人を死亡させた事案において、「人の死傷を伴ういかなる事故を惹起するかもしれないことは、当然認識しえた」として、特定の客体に侵害が生じることまでの予見可能性は不要としています。また判例は、予見可能な因果経過と実際の因果経過が異なった場合でも、因果関係の基本的な部分について予見可能性が認められれば、過失を認めることができるとしています。ここから分かるように判例は、予見可能性についてある程度広めに考えているといえます。

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